暖かい日曜日。女房と二人で川口図書館まででかけた。川口というのは、八王子駅から秋川街道をバスで行って30分近いところ。八王子の近郊だが、五日市などにも近いところで、明治時代、自由民権運動の盛んなところでもあったし、何よりも北村透谷の「三日幻境」の舞台である。そこの「川口やまゆり館」という八王子市設置の市民センターのなかに図書館がある。そこで、きだみのる、の小さな特別展示が行われていたので、それを見に行ったのだ。なんのことはない、きだの少しの本と顔写真が展示されているだけだ。でも、この「特別展」が、ここで行われることに、それがどんなにささやかなものであれ、意義があるのだ。一月下旬の新聞の地方欄でこのことが報道されたときに、びっくりした。よく知られているように、きだみのる、本名山田吉彦は、その流浪の人生の半ばころに、八王子の恩方(川口とは少し異なる)地区に住み、そこでの見聞を『気違い部落週游紀行』という、今ではことさらなタイトルとも思えるのだが、そのもとに、冷静客観の社会学的な立場・観察で記録し、それがベストセラーになるということがあった。このことは八王子という地域にとっては、その地霊的なものといったほうがいいだろう、ひとつのトラウマになっていて、きだみのるという天性の自由人、旅人を真に顕彰するというようなことは今まであまりなかったと私は思う。
今日、そこに展示されている昭和25年4月号の懐かしい総合雑誌『人間』を手に取った、ボロボロになりそうだが、まだ大丈夫という感じもあった、そのなかの、きだと林達夫の「書翰往復・コスモポリタンの生活信條」という頁。承諾を得て、200円近くでコピーした。
帰りのバスのなかで、川口出身の生徒のことを思い出した。名前も。これはめずらしいことだった。
気ちがいと自らを呼ぶ遅き暮れ
一粒の辛子のようにきだみのる
出不精の蝶に逢う日のファーブル 蕃
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