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2008年8月1日金曜日

連詩『卵』(9.June--1.August) by FARM

1
わたしは生きる、と書いたあとに
撮影所に出る川べりを歩いている。
ひとつの主題として
梅雨空の下の容器から
音楽のなかに卵をとりだす。その前に
黒い点となって消えようとする人影を追った。 (健二)

2
蜜蜂たちの大量失踪の映像を見たあとに
受粉を待つ雌蕊のことを思った。
果実、卵、すべての無言の形が消えて、白い
鋼の色が叫んでいる交差点。
「ないということさえない」破れた殻のなかに
小さな鼓動とかすかな蜜の味、浅い朝に。  (英己)

3
雲の上、太陽の黒点が増えてゆく
路面にあいた無数の穴が土色の水を溜めている
男は交差点を左折して
向い側の白い壁の割れ目に入っていった
パソコンに向かうと
色のない夢の中のように体が冷えてくる      (豊美)

4
成城学園前から千歳船橋へ
千歳船橋から千歳烏山へ
バスで移動した。
ちがう街の空気、穴と割れ目の
隠し方をそれぞれに工夫しているから
卵にむかう理由も変化する。         (健二)

5
片倉の蓮池で翡翠を見た、2度目だ。
望遠レンズのカメラたちもじっと見つめている。
とても小さな、それでいて梅雨空を輝かせる宝玉。
水面に垂れている細い枝に軽く止まっていたが、
水に突っ込むと、スーッと空に上昇して行った。
そのことを思っていた、その姿も。          (英己)

6
ねむれない夜、
わたしから遠く、夜のはてを
鳴きながらわたってゆくものがある
あれは何だ、夜明けを知らせる鳥のような
かすかな光を運んでゆくいのちの歌声のような
天に近く、ねむれない私からはるかに遠く、         (豊美)
  
7
出会う卵を割らないように
ゆっくりと歩く。歩きながら見ている
捜索者の夢。暗い通路の先の
水辺に映る
わたしの影の上を
一羽の可憐な鳥が飛ぶ。         (健二)

8
ヨルダン川の
ヨハネのように
湯殿川の
鵜が羽を広げていたのだ。
呼びかけられている、ただ呼びかけられているのに
卵生の異形のもの、などと思って見慣れた花に目をそらすのだった。   (英己)

9
破壊された戦車の下で微笑んでいた、
ゴラン高原の写真集で。
天使の足元から話しかけてきた、
サンタンジェロ橋の石畳で。
三浦半島の崖では鳥の巣のようにむらがって、
風に吹かれている。あの小さな薄桃色の花     (豊美)

10
『花の慕情』という五〇年前の映画の
花と司葉子。死んでいる卵のなかの
二種類のいのち。ただ立つものと
立って歩くもの。風のなかの
枝たち、どんな美しさをおそれあって
物語の崖をとびおりる鋏に切り落とされるのか。    (健二)

11 
半夏生の葉脈の白さをまだ見ない。
夏至にも気づかれることなく生活は過ぎてゆく。
貧しい卵をあたため、急に夏の盛りに
出遭う。ほのかな少女のあせばむ白いブラウスの夢。
浅い根の生きものたち、その秘められた感情の
最初のページにリスト・カットの血がにじんだ。    (英己)

12
あたらしい少女たちがやってくる
壊れそうで決して壊れない彼女たちが
楕円形の物語から抜け出して来る
カミソリの刃のようなところを平然とこちら側に
渡ってくる、根拠のないものの軽快さで眉を上げて
スカートから逸脱した踊る脚どりで         (豊美)
                   
13
「少女たちは欲望されると同時に欲望している」
と批評家Aは書く。何からぬけだしたのか?
「ほんとうは、この先にたのしいことなんか
待っていない」とわかったステップで、烏山通りから
甲州街道に出る。いくつもの断層を
隠し切れずに、世田谷の夜は炭水化物をきらう。   (健二)

14
火曜日。ドローレスという名とともに、
隠されていたプロットがにじみ出した。
小さなアスターが背筋をまっすぐに伸ばしている。
パーマネント・ヴァケーションという映画の
タイトルを思い出す。茎から花冠へと昇る
悲しみに理由はない。             (英己)

15
積み上げられた積み木の家
想像される未来の乾いた空気
少女たちの中でいつまでも固まらないプロット
夏休みの予定表はあらかじめ組み立てられ
夕立が来て青草の匂いが急に高くなる。理由もなく
乳房が膨らみ、怒りのようなものが湧いてくる        (豊美)

16
日没の卵を救うために
破棄せよ、溺死者の夏休みも、投身自殺した哲学者のプロットも。
吸えるものならば未来の空気を吸って
京王線で府中に出る。
「何にでもなりうる」
動き、成長する小さな者たちとともに。         (健二)

17
「おじさん、卵を一つくださいよ」
猫とバイオリンをあげるから。
塀から落ちたハンプティ・ダンプティ
フクロウに頼んだ
雀に呼びかけた。
それを夕焼けが見ていた、見ていた。          (英己)

18
夕焼けの四谷大橋を渡って夜が窓の外まで来ている。
卵料理はすべて、卵を割るところから始まる。
ガス台の前に立って、
夜のメニューの1ページ目を開く。
ふと振り向くと、子どもらはまだ橋の上にいる。
夕陽を浴びて笑いさざめいている。      (豊美)


(note)

連詩『卵』が完成しました。
以前に連絡しましたが明後日8月3日(日)、午後5時から
国立の音楽茶屋『奏』で、この新作連詩の発表をふくめた、FARMの
「詩朗読LIVE」を行います。

(場所) 音楽茶屋 奏
   国立市東1-17-20サンライズ21 B1F
Tel 042-574-1569
JR 国立駅南口旭通りへ徒歩5分、右側地下1階

(料金) オーダー+出演者へのカンパ


久しぶりのFARMの登場です。「全力疾走」で、この蒸し暑さを吹き飛ばしたいと思っています。

2008年7月30日水曜日

連詩『卵』17

15
積み上げられた積み木の家
想像される未来の乾いた空気
少女たちの中でいつまでも固まらないプロット
夏休みの予定表はあらかじめ組み立てられ
夕立が来て青草の匂いが急に高くなる。理由もなく
乳房が膨らみ、怒りのようなものが湧いてくる        (豊美)



16
日没の卵を救うために
破棄せよ、溺死者の夏休みも、投身自殺した哲学者のプロットも。
吸えるものならば未来の空気を吸って
京王線で府中に出る。
「何にでもなりうる」
動き、成長する小さな者たちとともに。         (健二)



17
「おじさん、卵を一つくださいよ」
猫とバイオリンをあげるから。
塀から落ちたハンプティ・ダンプティ
フクロウに頼んだ
雀に呼びかけた。
それを夕焼けが見ていた、見ていた。          (英己)

2008年7月25日金曜日

連詩『卵』16

14
火曜日。ドローレスという名とともに、
隠されていたプロットがにじみ出した。
小さなアスターが背筋をまっすぐに伸ばしている。
パーマネント・ヴァケーションという映画の
タイトルを思い出す。茎から花冠へと昇る
悲しみに理由はない。             (英己)


15
積み上げられた積み木の家
想像される未来の乾いた空気
少女たちの中でいつまでも固まらないプロット
夏休みの予定表はあらかじめ組み立てられ
夕立が来て青草の匂いが急に高くなる。理由もなく
乳房が膨らみ、怒りのようなものが湧いてくる        (豊美)


16
日没の卵を救うために
破棄せよ、溺死者の夏休みも、投身自殺した哲学者のプロットも。
吸えるものならば未来の空気を吸って
京王線で府中に出る。
「何にでもなりうる」
動き、成長する小さな者たちとともに。         (健二)

2008年7月20日日曜日

連詩『卵』15

13
「少女たちは欲望されると同時に欲望している」
と批評家Aは書く。何からぬけだしたのか?
「ほんとうは、この先にたのしいことなんか
待っていない」とわかったステップで、烏山通りから
甲州街道に出る。いくつもの断層を
隠し切れずに、世田谷の夜は炭水化物をきらう。   (健二)


14
火曜日。ドローレスという名とともに、
隠されていたプロットがにじみ出した。
小さなアスターが背筋をまっすぐに伸ばしている。
パーマネント・ヴァケーションという映画の
タイトルを思い出す。茎から花冠へと昇る
悲しみに理由はない。             (英己)


15
積み上げられた積み木の家
想像される未来の乾いた空気
少女たちの中でいつまでも固まらないプロット
夏休みの予定表はあらかじめ組み立てられ
夕立が来て青草の匂いが急に高くなる。理由もなく
乳房が膨らみ、怒りのようなものが湧いてくる        (豊美)



(日記抄)

18日(金)
神奈川は六角橋の「メリオール」で倉田良成さんの新詩集『神話のための練習曲集』の出版を祝う会に出席。
久しぶりの人とも会えた。

19日(土)
国立の「奏」で、『詩を語る夕べ』の2回目。ミルトンについての福間さんの話と最近の新詩集についての話など。

20日(日)
久しぶりに湯殿川に行く。

2008年7月15日火曜日

連詩『卵』14

12
あたらしい少女たちがやってくる
壊れそうで決して壊れない彼女たちが
楕円形の物語から抜け出して来る
カミソリの刃のようなところを平然とこちら側に
渡ってくる、根拠のないものの軽快さで眉を上げて
スカートから逸脱した踊る脚どりで         (豊美)
                   

13
「少女たちは欲望されると同時に欲望している」
と批評家Aは書く。何からぬけだしたのか?
「ほんとうは、この先にたのしいことなんか
待っていない」とわかったステップで、烏山通りから
甲州街道に出る。いくつもの断層を
隠し切れずに、世田谷の夜は炭水化物をきらう。   (健二)


14
火曜日。ドローレスという名とともに、
隠されていたプロットがにじみ出した。
小さなアスターが背筋をまっすぐに伸ばしている。
パーマネント・ヴァケーションという映画の
タイトルを思い出す。茎から花冠へと昇る
悲しみに理由はない。             (英己)


(日記)
 今日で、前期(非常勤の私にとって)が終了した。今日は成績の打ち込みのために、都合5時間職場のpcの前に座っていた。昼食をとるのも忘れた。混雑の中で、できるだけ早く成績を出したかったからだ。目がかすんできた。溜息ばかりが出た。でも、これが終われば、非常勤の身の気楽さ、9月までなにもない。それだけを思って、必死に、何重にもセキュリティのかかった成績処理のプログラムを開くだけで大変だったが、援助をあおぎながらどうにかやりおおせる。便利なようで、不便。成績の対象の生徒の顔は遠くにかすみ、ただ画面上の数字とにらめっこ。四種類の科目、その試験問題作製、その採点と生きた心地がしなかったが、やっと脱け出した。
 
 

2008年7月13日日曜日

連詩『卵』13

11 
半夏生の葉脈の白さをまだ見ない。
夏至にも気づかれることなく生活は過ぎてゆく。
貧しい卵をあたため、急に夏の盛りに
出遭う。ほのかな少女のあせばむ白いブラウスの夢。
浅い根の生きものたち、その秘められた感情の
最初のページにリスト・カットの血がにじんだ。    (英己)


12
あたらしい少女たちがやってくる
壊れそうで決して壊れない彼女たちが
楕円形の物語から抜け出して来る
カミソリの刃のようなところを平然とこちら側に
渡ってくる、根拠のないものの軽快さで眉を上げて
スカートから逸脱した踊る脚どりで         (豊美)
                   

13
「少女たちは欲望されると同時に欲望している」
と批評家Aは書く。何からぬけだしたのか?
「ほんとうは、この先にたのしいことなんか
待っていない」とわかったステップで、烏山通りから
甲州街道に出る。いくつもの断層を
隠し切れずに、世田谷の夜は炭水化物をきらう。   (健二)

2008年7月10日木曜日

連詩『卵』12

10
『花の慕情』という五〇年前の映画の
花と司葉子。死んでいる卵のなかの
二種類のいのち。ただ立つものと
立って歩くもの。風のなかの
枝たち、どんな美しさをおそれあって
物語の崖をとびおりる鋏に切り落とされるのか。    (健二)


11 
半夏生の葉脈の白さをまだ見ない。
夏至にも気づかれることなく生活は過ぎてゆく。
貧しい卵をあたため、急に夏の盛りに
出遭う。ほのかな少女のあせばむ白いブラウスの夢。
浅い根の生きものたち、その秘められた感情の
最初のページにリスト・カットの血がにじんだ。    (英己)


12
あたらしい少女たちがやってくる
壊れそうで決して壊れない彼女たちが
楕円形の物語から抜け出して来る
カミソリの刃のようなところを平然とこちら側に
渡ってくる、根拠のないものの軽快さで眉を上げて
スカートから逸脱した踊る脚どりで         (豊美)

2008年7月5日土曜日

連詩『卵』11

9
破壊された戦車の下で微笑んでいた、
ゴラン高原の写真集で。
天使の足元から話しかけてきた、
サンタンジェロ橋の石畳で。
三浦半島の崖では鳥の巣のようにむらがって、
風に吹かれている。あの小さな薄桃色の花     (豊美)


10
『花の慕情』という五〇年前の映画の
花と司葉子。死んでいる卵のなかの
二種類のいのち。ただ立つものと
立って歩くもの。風のなかの
枝たち、どんな美しさをおそれあって
物語の崖をとびおりる鋏に切り落とされるのか。    (健二)



11 
半夏生の葉脈の白さをまだ見ない。
夏至にも気づかれることなく生活は過ぎてゆく。
貧しい卵をあたため、急に夏の盛りに
出遭う。ほのかな少女のあせばむ白いブラウスの夢。
浅い根の生きものたち、その秘められた感情の
最初のページにリスト・カットの血がにじんだ。    (英己)


(日記)

○ 福間さんの10を、阿部嘉昭さんが、そのblogで「素晴らしい詩句」として紹介していた。
具体的には、その後半部を阿部さんなりに改行して示したうえで。以下のように紹介されている。


風のなかの枝たち、

どんな美しさをおそれあって

物語の崖をとびおりる鋏に

切り落とされるのか


原詩の改行を改行し直して見えてくる新たな美、阿部さんの慧眼を感じた。

○ 昨晩は気の置けない友人たち三名と吉祥寺で飲んだ。中央線は事故の影響で大幅に遅れていた。八王子から吉祥寺まで、昔はあっという間だと思ったが、結構時間がかかった。昔懐かしい、ハモニカ横丁の洒落た?店、これも新しい経験だった。学生時代の汚れて、小便の臭いのする横丁などは、どこにもない。しかし、あの路地が残っているということは奇跡的なことかもしれない。 

連詩『卵』10

8
ヨルダン川の
ヨハネのように
湯殿川の
鵜が羽を広げていたのだ。
呼びかけられている、ただ呼びかけられているのに
卵生の異形のもの、などと思って見慣れた花に目をそらすのだった。   (英己)

9
破壊された戦車の下で微笑んでいた、
ゴラン高原の写真集で。
天使の足元から話しかけてきた、
サンタンジェロ橋の石畳で。
三浦半島の崖では鳥の巣のようにむらがって、
風に吹かれている。あの小さな薄桃色の花     (豊美)


10
『花の慕情』という五〇年前の映画の
花と司葉子。死んでいる卵のなかの
二種類のいのち。ただ立つものと
立って歩くもの。風のなかの
枝たち、どんな美しさをおそれあって
物語の崖をとびおりる鋏に切り落とされるのか。    (健二)

2008年7月3日木曜日

連詩『卵』9

7
出会う卵を割らないように
ゆっくりと歩く。歩きながら見ている
捜索者の夢。暗い通路の先の
水辺に映る
わたしの影の上を
一羽の可憐な鳥が飛ぶ。         (健二)

8
ヨルダン川の
ヨハネのように
湯殿川の
鵜が羽を広げていたのだ。
呼びかけられている、ただ呼びかけられているのに
卵生の異形のもの、などと思って見慣れた花に目をそらすのだった。   (英己)

9
破壊された戦車の下で微笑んでいた、
ゴラン高原の写真集で。
天使の足元から話しかけてきた、
サンタンジェロ橋の石畳で。
三浦半島の崖では鳥の巣のようにむらがって、
風に吹かれている。あの小さな薄桃色の花     (豊美)



(日記)
あと少しで、夏休み。そう思って、毎日をしのいでいる。去年までとは違って、暇になるから、どこかへ行きたいなと思っています。女房は介護専門のようになっているから、義父のショート・ステイなどを手軽に頼める施設を今探している。新井さんの連詩にある、三浦半島にはぜひ行きたいと思っている。高貝さんの『白秋』を持っていって、三崎時代の北原白秋をしのぶ旅などは最高だろうな。

2008年6月28日土曜日

連詩『卵』8

6
ねむれない夜、
わたしから遠く、夜のはてを
鳴きながらわたってゆくものがある
あれは何だ、夜明けを知らせる鳥のような
かすかな光を運んでゆくいのちの歌声のような
天に近く、ねむれない私からはるかに遠く、         (豊美)
  

7
出会う卵を割らないように
ゆっくりと歩く。歩きながら見ている
捜索者の夢。暗い通路の先の
水辺に映る
わたしの影の上を
一羽の可憐な鳥が飛ぶ。         (健二)


8
ヨルダン川の
ヨハネのように
湯殿川の
鵜が羽を広げていたのだ。
呼びかけられている、ただ呼びかけられているのに
卵生の異形のもの、などと思って見慣れた花に目をそらすのだった。   (英己)


(湯殿川 近影)
これは「鵜」ではないと思うが。
 
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城址公園の蓮
 
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2008年6月26日木曜日

連詩『卵』7

5
片倉の蓮池で翡翠を見た、2度目だ。
望遠レンズのカメラたちもじっと見つめている。
とても小さな、それでいて梅雨空を輝かせる宝玉。
水面に垂れている細い枝に軽く止まっていたが、
水に突っ込むと、スーッと空に上昇して行った。
そのことを思っていた、その姿も。          (英己)

6
ねむれない夜、
わたしから遠く、夜のはてを
鳴きながらわたってゆくものがある
あれは何だ、夜明けを知らせる鳥のような
かすかな光を運んでゆくいのちの歌声のような
天に近く、ねむれない私からはるかに遠く、         (豊美)
  

7
出会う卵を割らないように
ゆっくりと歩く。歩きながら見ている
捜索者の夢。暗い通路の先の
水辺に映る
わたしの影の上を
一羽の可憐な鳥が飛ぶ。              (健二)


(日記)

友人や知人の詩集、エッセイ集、翻訳などがこぞって上梓された。わが身の怠惰を恥じるのみ。
当分は、これらを読むことに没頭しよう。

2008年6月25日水曜日

連詩『卵』6

4
成城学園前から千歳船橋へ
千歳船橋から千歳烏山へ
バスで移動した。
ちがう街の空気、穴と割れ目の
隠し方をそれぞれに工夫しているから
卵にむかう理由も変化する。         (健二)

5
片倉の蓮池で翡翠を見た、2度目だ。
望遠レンズのカメラたちもじっと見つめている。
とても小さな、それでいて梅雨空を輝かせる宝玉。
水面に垂れている細い枝に軽く止まっていたが、
水に突っ込むと、スーッと空に上昇して行った。
そのことを思っていた、その姿も。          (英己)

6
ねむれない夜、
わたしから遠く、夜のはてを
鳴きながらわたってゆくものがある
あれは何だ、夜明けを知らせる鳥のような
かすかな光を運んでゆくいのちの歌声のような
天に近く、ねむれない私からはるかに遠く、         (豊美)


(日記)
新井さんの、この詩を読むと、胸がザワザワする感じになる。むろん、その反対の、寂しさの極とともにだが。

小林多喜二の『蟹工船』を読んでいる、そのなかに、次のような描写がある。

昼過ぎから、空の模様がどこか変ってきた。薄い海霧(ガス)が一面に―しかしそうでないと云われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。荷物にかけてあるズックの覆いの裾がバタバタとデッキをたたいた。
「兎が飛ぶどォー 兎が!」誰かが大声で叫んで、右舷のデッキを走って行った。その声が強い風にすぐちぎり取られて、意味のない叫び声のように聞こえた。
 もう海一面、三角波の頂がしろいしぶきを飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上がっているようだった。――それがカムサッカの「突風」の前ブレだった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今までに右舷に見えていたカムサッカが、分からないうちに左舷になっていた。


 これを読みながら、私は昨日の漁船の遭難のことを思った。この描写の力はすごい。テレビなどのメディアの「報告」や気象士たちの解説よりもリアルだと思う。「兎が飛ぶどォー 兎が!」というのは、危険な三角波が「兎のように飛び跳ねている」という点から言えばメタファーだが、しかし私はそのようなのんびりとした類似性をここには感じない。これは、三角波のあだ名に相違ないのであって、これはメトニミー(換喩)であろう。劣悪で過酷な仕事に縛りつけられた貧しい漁夫たち、東北の山村から、背に腹はかえられぬ思いで、この仕事に飛び込んだ彼らにとって、この三角波を呼ぶにもっともふさわしい名である。意味も何もない(いや、それを奪われた)環境のなかで、そこにただ存在するものに向き合い、生存のために、それらと、ときには協働し、ときにはそれらと戦うとき(こちらのほうがすべてだろうが)、それらの適切な比喩をぎりぎりのところで案出すること、そういう実践が、実は小林多喜二の『蟹工船』のテーマである。

2008年6月20日金曜日

連詩『卵』5

3
雲の上、太陽の黒点が増えてゆく
路面にあいた無数の穴が土色の水を溜めている
男は交差点を左折して
向い側の白い壁の割れ目に入っていった
パソコンに向かうと
色のない夢の中のように体が冷えてくる      (豊美)

4
成城学園前から千歳船橋へ
千歳船橋から千歳烏山へ
バスで移動した。
ちがう街の空気、穴と割れ目の
隠し方をそれぞれに工夫しているから
卵にむかう理由も変化する。         (健二)

5
片倉の蓮池で翡翠を見た、2度目だ。
望遠レンズのカメラたちもじっと見つめている。
とても小さな、それでいて梅雨空を輝かせる宝玉。
水面に垂れている細い枝に軽く止まっていたが、
水に突っ込むと、スーッと空に上昇して行った。
そのことを思っていた、その姿も。          (英己)




(白眼断片)

いろんなことが雑然と目の前に浮かんでいて、まとまりがつかない。強いてまとまりをつけるようなものやことではないにしても。火曜日だったか、宮崎勤の刑が執行されたが、それに関して翌日の朝日新聞に大塚英志が寄稿していた。ここ20年で失われたものは、この社会自らが、「事件」の責任主体として考える、という姿勢、そういう姿勢の喪失であるというような論旨だった。ネオリベの高揚と市場原理の制覇で、格差や勝ち負けこそが、シビアで「現実」的かつ「理性」的であるかのような考えの趨勢が社会の成員すべてを覆いつくした20年であったのかもしれない。そこから、戦争こそが希望であるというような、その論旨はそれなりに納得的ではあるが、過激な論が、90年代の、いわゆる「失われた世代」から提出された。

もと右翼のパンクロックに身をやつしていた少女は『生きさせろ』を書き、不安定な雇用(雇用形態の自由化という資本の勝利の反面)に命を削られるプレカリアートたちの女神、代弁者になる。こういう変化に私が反対する理由はなにもない。一方で薬害問題に積極的に取り組み、その元凶を追いつめた女性のニュースキャスターは、見るも無残な国家主義者に変貌した。

都知事は、その居直り主義と無反省の極みをどこまでも突き進むのが己の生きる道であるかのように、今なお他を批判しつつ、己がしたことすべてを「棚上げ」して、しかもそれを人に拝めと言わんばかりである。

朝日の「素粒子」が、昨日か、鳩山法相を痛烈に批判した。彼に「死に神」というあだ名を捧げたのである。それを読んで、溜飲が下がったのは私ひとりではないはずだ。「**鬼」といわれるよりはましであろう。
好きな蝶のコレクションでもしていればいいのに、どうして、こういう人が、大臣などになるのだろうか。それも、「死刑」というような国家の刑罰をいまだに残している野蛮な国の所轄の大臣に。

グリーンピースの成員で、調査捕鯨で捕った鯨肉の一部が、お土産のようなものとして、船員やその会社の人たちに配送されていることに腹をたて、配送会社の倉庫から、その送られる鯨肉を「証拠」として、持ち帰った二人が、逮捕された。盗みと建造物侵入の罪に問われたのである。日本グリーンピースの代表、星川淳はこれに対して抗議した。二人は逃亡することはなく、そもそもこれは悪の「証拠」として押収したものであると。私も逮捕されるようなことではないと思う。思うが、このグリーンピースのやりかたには反対である。
お土産として、調査捕鯨に参加したすべてのものや、その所轄の官庁の幹部などにも、鯨肉は配られたことはだれがみても明白なことであろう。それが日本のやり方。そのことをだれも悪いこととは思っていないし、ここにはノスタルジアをふくめて「鯨肉文化」というのもあるくらいだから。それらを欧米流のグリーンピースのやり方で、即破壊しようとしても不可能なのではないか。逮捕したのは、サミットを前にした過剰警備の始まりであることだけは確かだ。(星川淳は、私の記憶によれば、屋久島在住の英文学者で、alternativeなアメリカ先住民の文化などの研究で知られた人だ、私は彼がグリーンピースの日本代表であることを今日はじめて知った。)

2008年6月18日水曜日

連詩『卵』3、4

1
わたしは生きる、と書いたあとに
撮影所に出る川べりを歩いている。
ひとつの主題として
梅雨空の下の容器から
音楽のなかに卵をとりだす。その前に
黒い点となって消えようとする人影を追った。 (健二)

2
蜜蜂たちの大量失踪の映像を見たあとに
受粉を待つ雌蕊のことを思った。
果実、卵、すべての無言の形が消えて、白い
鋼の色が叫んでいる交差点。
「ないということさえない」破れた殻のなかに
小さな鼓動とかすかな蜜の味、浅い朝に。  (英己)

3
雲の上、太陽の黒点が増えてゆく
路面にあいた無数の穴が土色の水を溜めている
男は交差点を左折して
向い側の白い壁の割れ目に入っていった
パソコンに向かうと
色のない夢の中のように体が冷えてくる      (豊美)

4
成城学園前から千歳船橋へ
千歳船橋から千歳烏山へ
バスで移動した。
ちがう街の空気、穴と割れ目の
隠し方をそれぞれに工夫しているから
卵にむかう理由も変化する。         (健二)



(ノート)
連詩の掲載の仕方を考えている。いつでも三つの詩が読めるように載せるほうがいいかなと思う。つまり、三名の、そのとき一番新しいものが、最後に来るようにして、掲載してみようかなと。あまり長くなると、読むほうもだれるのではないか。次回からためしてみる。

(日記)
21日に、福間さんが書いたように、国立の『奏』で、7時から『詩を語る夕べ』をやるのだが、そのときの話の糸口になるような質問を考えている。たとえば、

<近くから>
①ぼくたちにとって、詩を書く、詩を読むというのは、どういう経験でしょうか?
②その経験にはどのようなリアリティ、アクチュアリティがありますか?
③「詩」について、まず思い浮かべることは、どういうことですか?
④「詩」以上の「詩」というのはあるでしょうか?
⑤読まれないといわれる現代「詩」を読むことの意味は?書く人はそれでもいますが。


<遠くから>
①詩(文学)・映画・思想、これらを横断するイメージがありますか?
②最近の事件について、たとえば秋葉原での「事件」、どう考えますか?そのことは「詩」を書くこととどうつながり、あるいはつながらない、と考えますか?
③この「社会」は、60年、70年、80年、90年、現在と構造的な変化をきたしていると思いますか?私はそう思いますが、そのことは上の事件や、「詩」をめぐる状況とも大きな関係を持っていると思います。そのことについて、ご意見があれば述べてください。
④今の自己を支える、あるいは支えになるかもしれない「何」かが、ありますか?どんなことでもいいですから、あれば答えてください。




 

2008年6月12日木曜日

連詩『卵』2、他

卵

1
わたしは生きる、と書いたあとに
撮影所に出る川べりを歩いている。
ひとつの主題として
梅雨空の下の容器から
音楽のなかに卵をとりだす。その前に
黒い点となって消えようとする人影を追った。(健二)

2
蜜蜂たちの大量失踪の映像のあとに
受粉を待つ雌蕊のことを思った。
果実、卵、すべての無言の形が消えて、白い
鋼の色が叫んでいる交差点。
「ないということさえない」破れた殻のなかに
小さな鼓動とかすかな蜜の味、浅い朝に。 (英己)




 ワイパーのせわしない動きもフロントガラスを瀧のように流れる落ちる激しい雨に追いつかない朝だった。なんとか山の上の、泥んこになった駐車場まで車を動かした。それでも普段と変わらない通勤時間だったので、電車とバスで行くのに比べると格別にはやい。都に勤めていた頃は、車通勤はきびしく排除されていたので、ここ十年以上車で職場に行ったことはない。これも非常勤のありがたさ。車通勤の届出をすると、ガソリン代もわずかながら出る。

 今日は一日5コマの授業があって、一番疲れる日。気息奄々という状態で、なんとかしのぐ。授業が終わると、雨はすっかり止んでいた。夜は風もない雨後の静けさ。半月が出ている。

2008年6月11日水曜日

連詩『卵』1

FARM(福間健二・新井豊美・水島英己)の連詩を再開します。今までに、『嘆きのとき(05年1月9日~2月8日)』、『白い凪(05年3月16~5月15日)』、『島(05年7月6日~9月26日)』、『秋風秋雨」(10・13 05年 ~1・11 06年)』、『闇(06年3月17日~7月9日)』、『光(9・8 06年 ~12・3 06年)』、『夢見よ、さらに夢見よ(2007/02/10~3/25)』と七編(巻)の連詩を、このユニットで作ってきました。今回は、第八巻(篇)目の連詩です。「芭蕉七部集」を数においては越えてしまうことになります。


今回のタイトルは『卵』です。順番は福間→水島→新井です。巻頭の福間健二の作品を載せておきます。


卵(08年6月9日 ~   )

1
わたしは生きる、と書いたあとに
撮影所に出る川べりを歩いている。
ひとつの主題として
梅雨空の下の容器から
音楽のなかに卵をとりだす。その前に
黒い点となって消えようとする人影を追った。(健二)