2008年7月10日木曜日

連詩『卵』12

10
『花の慕情』という五〇年前の映画の
花と司葉子。死んでいる卵のなかの
二種類のいのち。ただ立つものと
立って歩くもの。風のなかの
枝たち、どんな美しさをおそれあって
物語の崖をとびおりる鋏に切り落とされるのか。    (健二)


11 
半夏生の葉脈の白さをまだ見ない。
夏至にも気づかれることなく生活は過ぎてゆく。
貧しい卵をあたため、急に夏の盛りに
出遭う。ほのかな少女のあせばむ白いブラウスの夢。
浅い根の生きものたち、その秘められた感情の
最初のページにリスト・カットの血がにじんだ。    (英己)


12
あたらしい少女たちがやってくる
壊れそうで決して壊れない彼女たちが
楕円形の物語から抜け出して来る
カミソリの刃のようなところを平然とこちら側に
渡ってくる、根拠のないものの軽快さで眉を上げて
スカートから逸脱した踊る脚どりで         (豊美)

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