2008年7月17日木曜日

夏の貴婦人

夏の貴婦人

片倉城址の頂にはだれもいなかった。
倉田君の新詩集『神話のための練習曲集』を草の上に
置き、写真を撮った。強い西日のなかに詩集が
浮き上がる。

コンビニで買った「一番搾り」を飲み
西側の山道を湯殿川まで降りて歩く。
しつこく咲いている半夏生の白が腐りはじめている、
いやなおじさんだよ、家の人に許可などとって。

You Don’t Know What Love Is
湯殿川を歩くときには、いつも耳もとでだれかが
歌っている、サザンではない、チェット・ベーカー。
ここから、
レイモンド・カーヴァーのそれまでが
散歩の悲喜交々で、
最後にカーヴァーの詩のなかの
ブコウスキーの声が笑い飛ばすという道のり。

「学校の先生なんかに
愛なんて分かってたまるか、くそみたいな
白蟻みたいな連中に」
「きみらには愛はわからないね、なぜなら
女に殴られたことがあるかい?女をぶち
のめしたことがあるかい?」

You Don’t Know What Love Is

対岸に回る帰途は西日を背に受けて歩く
これ以上はないというように大きく、立派な尻の、
腰の曲がったおばあさんの尻が目の前に咲いていた。
背の高いその人は、小さな中年のおばさんと向き合っていた。
その人の尻に私は今までのその人の人生のすべての香を、
好ましく嗅いだようだ。

通過した、そのとき
痩せた中年のおばさんの声が聞こえた。
「死ぬのも難しいわよ」
立派な尻のおばあさんはまさか愁訴しているのか?
小さな痩せたおばさんはまさか慰めているのか?
私は痩せたおばさんとその声がきらいだ、
あのような尻から私は生まれてきたと思うだけで、
私は幸せだ、と思うからか?

しつこい暑さに花も枯れていた。
紫の花の、花弁で、八枚あるのが所々に目立つ、
八枚、八枚、偶数なんだ。
犬を連れたおばさんや、犬に連れられたおじさん
しつこくチェット・ベーカーが歌っている
「不眠のそれぞれの朝を迎えるまで
愛はきみには分からない」って。




 
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