2008年4月7日月曜日

The Man Outside

The Man Outside

その男はよどみなく実践について喋った。
暖房の効いた講堂のなかは午前の陽射しとともに暑さが増してくる。
「教育は教だけではなく育むということを忘れている、
育むとは羽を含む、鳥が雛の羽を含む、羽含むということです」

話の節々に、クニの何とか会議の委員とか、なんとか塾の長をしている、
などとさりげなく付け加えることも忘れなかった。
江戸時代は「子どもの楽園」でした、これは『逝きし世の面影』、
この本はぜひ買って読んでください、それにみごとに描かれている。
いつから電車の中で化粧をして、それを恥じなくなったのか?
ルース・ベネディクトは「恥の文化」と言っています、いつから?

どうしようもない学校、眉毛のない連中のいる、人の話なぞ
まともに聞いたことのない悪ぞろいの学校で
講演を頼まれます。
最初の十分を過ぎると、静かになる、次の十分を過ぎると
みんな私を注目する、なぜか?
「彼らは、大人で、私のように心を尽くして彼らに話しかける人間に
そう、はじめて出会ったからです」、これを「心施」という。

その男は白板に下手な字で書きなぐる。「無財の七施」の一つと。
その男はよどみなく実践について喋る。
その男は知らないことがないようだ、その男は日本の文化というものの、
熱烈な擁護者で、その男は現代の日本人は脳が破壊されているという。
私は脳科学の研究もやっていて、母が子を抱いているときに出る、
必ず分泌する何とかというホルモンをつきつめた。
それが根本です!

しかるに、男女参画なんとかやら、ジエンダーフリーなんとかやら、
女の人が働くために保育を二十四時間にしろという、まったく狂気です。
羽を含むことが大切なのに。

もう2時間も過ぎた。だれもこの男のよどみない喋りに抵抗できない。
「改正」された教育基本法の何条の項目に「親も学ぶべき」だとある、
あれは私が…。
親が子どもをしつけなければ一体?

父なる神に祈るしかない。
主よ、この男の舌とこの男の、この心の真っ当さをどうにかしてください!
ねじまがったもの、よどみにみちたもの、くじけるものを
この男のつるりとした鬚面に投げつけてください。
この男の思い上がりが、主よ、いかにあなたのバランスを破壊したものか、
人は跛行しながらしか
生きてゆけないものだということを知らしめてください。

「そこの人、あなたは次の統計の意味をどう考えますか?」
その男は獲物を見つけた。
一番幸せな国は?
日本、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、ナイジェリア、イスラエルなどのうち、
どの国?そのクニの人々の答えの統計がありますよ。
国民はどう答えた?
だれも日本とは言わない、もちろん日本は三十二位です。

さあ、誰か?
「ナイジェリアです」、正解! でも、どうして?
不幸と貧しさの中でこそ、今を生きる幸せが輝いているからです。
正解!正解!
その男は獲物に向って微笑んだ。

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