2008年3月26日水曜日

ヘルプ

ヘルプ      
        "When I was younger, so much younger than today, "
                                       Beatles

卒業生が残していった大量の教科書や靴などを整理していると
手伝います、と言って一年の女の子が寄ってきた。
教室のものをすべて片付けても、まだロッカーがある、大変だと思っていたので
その言葉はうれしかった。
ぼくは、そのとき高校の先生をやっていて、あれこれあったけど
最後の日には、天使のような女の子がやってきて、
手伝います、とぼくに告げた、と十年後に思い出したい気分になった。

鍵を壊して、ロッカーを開けると
「心には制服を着るな」という言葉が扉の裏に書かれていた。
その隣のロッカーはヌード写真で埋め尽くされている。
たえていたものは青春で、それが奪われてゆくさまも
昔と同じだ。

残されたものを鈴蘭テープでくくる。
一年の女の子の名前はカラシマさんといった。資源ごみでいいですよね、
ありがとう、辞書類は持って帰っていいよ。あっ、ジーニアスまである。
三十八名が残したものは重かった。

終わらないことがあると思っている、思っていても
突然それは終わっている。
終わらないことのなかには終わりにさせたくないことがある、それは
きみがひきずっている物語だが、
ずっと昔の、その日に
それは終わっていた。

カラシマさんのテープの結びがゆるくて、生物や現代文がすべりおちた、
ぼくのテープの結びもだらしなかった、
ゴミ置き場まで何回往復しただろうか? 
落ちるものを拾い上げて歩くのは辛い、
そこまではカラシマさんは手伝わなかったし、
頼みもしなかった。

「若いころ、もっとずっと若いころ、
ひとの助けは全然要らなかった。けど、そんな時は過ぎた…」
本当に終わったのだろうか?
残したものを引きずりながら、
どんなにきつく結んでも
すべり落ちることに向って歩いているのではないだろうか?
Won’t you please, please help me?

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

Help、メロディーを思い出し、歌詞を思わず口ずさむ。ジョン・レノンの言葉にもっと接したかった。しかし、年老いてこそ、青春は繰り返す、自分の外と内において。