2010年1月24日日曜日

lenteur

以下は、中村隆之君のblog 「OMEROS」  からの転載。中村君は去年からマルティニックに滞在している。彼の畏敬する作家で同島に住んでいるエドゥアール・グリッサンを最近訪ねたときの話。

こんな質問を投げかけてみた。マルティニックを花で喩えるなら何か。たとえばセゼールの政党はバリジエを選んだが、もし喩えるなら何か、と。詩人はこう言った。マルティニックを一つの花で喩えることはできない。無数の、繁茂するさまざまな花々がマルティニックだ、と。

その後は雑談をした。船が好きで、最近はもっぱら船で移動をするという話を聞いた。飛行機は3時間が限度。数日間をかけて太平洋を横断し、船のなかで仕事をする。それは詩人の"lenteur"(穏やかさ、緩やかさ、遅さ)への愛着でもある。速度を優先する飛行機よりも、船の"lenteur"を好んだ。また、東京は好きではないが、東京好きになった当時10歳の息子マチューにこう言われたという。東京はまさにグリッサンのいう「世界という混沌」(chaos-monde)ではないか、と。10年前に来日した思い出として、そのことを楽しそうにしゃべってくれた。

庭にはいくつもの木が植えられている。そのうちの一つに「旅人の木」というのがある。扇状の葉をした木であり、根は水を含んでいる。疲れた旅人がこの根から水を得るわけだ。5年前にグリッサン自身が植えたこの「旅人の木」を眺めながら、静かな一時を過ごした。

追記:昼食の際にパンノキの実、クシュクシュというヤム芋の仲間を食した。


まさに永遠の真昼を思わせる一時である。私はこの「全―世界論」の詩人、作家の「"lenteur"(穏やかさ、緩やかさ、遅さ)への愛着」という中村君の見出した姿勢に深く共鳴する。

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