2009年11月8日日曜日

立冬

 昨日は暖かな立冬だった。今朝は曇り。天候のことなどを考えると、つい歳時記などに手が伸びる。お隣から、柿を多く頂戴した。老夫婦二人では食べきれないので、ジャムなどにしようかと妻は考えているみたい。昨晩は漱石の俳句を眺めていた。


此里や柿渋からず夫子住む(m29)
日あたりや熟柿の如き心地あり(m29)
渋柿も熟れて王維の詩集哉 (m43)
柿落ちてうたた短き日となりぬ(m30)

上の最後の句の季は「短き日」で冬。

文債に籠る冬の日短かかり(m40)


というのもあった。「文債」は「筆債」とも。書くことを約束して書けないでいた文のこと。それを果たそうとして書斎に籠るのだろう。恰好よすぎ。立冬の句には「冬来たり袖手して書を傍観す(m29)」というのがあった。「袖手」は「しゅうしゅ」と読むのであろう。寒いので手を袖に入れる、ふところ手して書物を眺めるというのだ。現代ではあまりしないことだ。「冬来たり袖手してpc傍観す」か。趣もなにもない。

 詩を書きたい気持ちが少しずつ募る。書きかけのものをプリントアウトして、あれこれと考え直し、書き直そうとする。8行のものに、4行足したところで、ジャズを聴きたくなったので、パソコンの電源を入れて、ラジオを聴く。ジェローム・カーンの名曲"the way you look tonight"が流れる。早速you tubeで調べると、この曲は1936年フレッド・アステア主演のミュージカル『Swing Time』のために作られたのだが、そのフレッド・アステア本人が当の映画で歌っている極めつきの動画が出てくるという便利さ。それを何回か繰り返して、アステアの歌声と一緒に、シャドウイングもかねて?一人カラオケを音を小さくしてやるころには、書きかけの詩のことも、日本近代文学の本質もレヴィ・ストロース(なんで新聞は、レビストロースと表記するのだろうか)の偉大な業績を偲ぶこともすっかり忘れてしまう始末。アラカンのおじさんの冬の夜はこうして更けてゆくのでありました。




 「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」
                 Claude Lévi-Strauss "Tristes Tropiques"

2 件のコメント:

タクランケ さんのコメント...

 「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」

凄い断言だ。でも、その通りだという人間がいて、いや、そうではないという人間がいる。これが多分人間の歴史だった、これからも。この問題を解く学問、体系を、哲学と呼んでいるのだと、わたしは思います。ソクラテス以前から。

2.フレッド・アステア、素晴らしい歌。女優の表情も素晴らしい。こんな安定した社会に、一度でいいから居たかったなあ。でも、そうでないことが、幸せかも知れません。

ban さんのコメント...

レヴィ・ストロースの断言は、彼の弟子の川田順造が、朝日新聞11月7日で述べていたのを引用しました。以下、次のように川田は語っています。

― 先生の言葉で私の心にしみているのは、「世界は…終わるだろう」という、『悲しき熱帯』の一節だ。人間のおごりを静かに戒める、これほど簡素で決然とした言葉があるだろうか。先生の思想は、個人の生き方におけるつつましさと連続する、人類についての壮大なペシミズムに貫かれている。―
川田のこの言葉はすばらしくて、さすがに師を知ることにかけてこの人以上の人はいないなと思いました。川田ももちろんすばらしいと思います。